ロングインタビュー 「ICTを活用したチーム医療で診療の質向上を。」

社会医療法人春回会 井上病院
呼吸器内科、睡眠呼吸障害 吉嶺 裕之 病院長

長崎県にある社会医療法人春回会 井上病院では、YaDocのモニタリング機能を活用し、チーム医療の強化や病診連携の取り組みを行っています。病院でICTを活用することメリットや今後の展望などについて、病院長の吉嶺 裕之先生に伺いました。

6、7年前から感じていた遠隔モニタリングの重要性

遠隔モニタリングの重要性については、かなり以前から感じていました。私の専門領域は呼吸器内科と睡眠医療で、多くの睡眠時無呼吸症候群の患者さんを診ています。

CPAP(※1)は非常に効果が出る治療なのですが、あくまでも対症療法であるため、しっかり使わないと効果がでませんし、使用時間が短いと治療効果もそれほどでません。高い治療効果を出すには「いかにしてアドヒアランスを高めるか」がキーワードとなり、CPAPが出た20年以上前からずっと続いている課題です。

10年程前、アメリカではCPAP導入時期の使用状況によって保険償還が決まるという決定がありました。つまり、きちんと使っていないと、その医療費に関して公的なサポートが出ないということになりました。
CPAPのメーカー側は、そこそこちゃんと使われているだろうと思っていたようなのですが、実は意外とアドヒアランスが良くないということが分かりました。アドヒアランスが悪いために保険償還がなくなれば、当然利用者は減っていき、在宅機器会社も収益が上がりませんので、これは大変な問題だということになりました。

そんな中、初期対応で起こるようなトラブルをきちんと解決する事で、長期的に使用継続できるということが分かってきました。そのために自宅で使用しているCPAPのデータをモニタリングし、問題がある人をピックアップし介入していくシステムが必要となったのです。そこで、ICT技術を上手く利用し、各メーカーがCPAPのデータをクラウドにあげてその結果を元に患者さんに介入するという仕組みを作り上げました。

欧米ではこのCPAPの遠隔モニタリングシステムの発達により、必要な患者さんに介入ができる仕組みができたことで、アドヒアランスが悪かった患者さんも治療が上手くいくようになったのです。

私はたまたま6、7年前ぐらいにアメリカのあるCPAPメーカーの本社を訪問し、このシステムの事を知ったのですが、ちょうどその頃に日本にもこのコンセプトのもとに作られた製品が入ってきたこともあり、遠隔モニタリングの重要性を感じるようになっていました。

ICTの導入でより良い診療を提供したい

ただしCPAPで取るデータはあくまでも機械の作動状況なので、何時間使用しているという情報しか分からず、患者さん自身の症状の変化は分かりません。「昼間の眠気がどうだったか」、「寝付くまでどのくらい時間がかかったか」という患者さんの情報をきちんと取るためには、CPAPの遠隔モニタリングのデータとは別に、質問票のようなものが必要だと思っていました。

それからもう一つ、CPAPは継続的に使う人が多い治療でもあり、長い人だと5年、10年使う患者さんもいます。その結果、当院では月に約800名の患者さんが受診されるようになっているのですが、そうなると外来は混みますし、症状が安定している患者さんはごく短時間で診察が終わってしまうこともあります。

そのような中で、安定した患者さんは1ヶ月おきの受診ではなく、2ヶ月から3ヶ月に一回の受診でいいのではないか、そもそも電話での応対でも良いのではないかという思いがでてきました。患者さんも、診療・通院のためにわざわざ仕事を休んだりし時間を工面して来院されており、コミュニケーションを取りながらも、医師も患者さんにとっても効率のよいシステムの必要性を感じていました。

症状の変化をどのように捉えるかという意味では、リアルタイムに電話で話す時の情報のみでは不十分な事も多く、患者さん自身が診察と診察の間の状況を入力し、これを医療者側が把握できるシステムが必要です。そのような事を考えている時、たまたま武藤先生(※2)にお会いしYaDocのお話を伺い、YaDocにモニタリング機能がある事を知りました。
体重や血圧などはデフォルトで誰でも使用できますし、医者がオリジナルの問診を作成することもでき、これは便利だと思い病院にYaDocを導入いたしました。

コミュニケーションツールの一つとして活用する

2019年にYaDocを導入したのですが、ほどなくコロナが発生したため、感染リスクを減らすために積極的にオンライン診療を紹介しました。2021年夏にCPAPの患者さんを中心にアンケートを実施したところ、オンライン診療でフォローしてもアドヒアランス等が落ちるわけではないことがわかりましたので、現在も続けるに至っています。とはいえ、スマホの操作が苦手な高齢者や複数の診療科を受診している方など、オンライン診療よりも来院し対面診療を希望する患者さんもいますので、患者さん一人一人とのお話し合いをして、対面診療とオンライン診療のどちらにするかを決めています。

最近は、対面診療とオンライン診療の使い分けをしている患者さんもいます。例えば、コロナの感染者数が増えた時にはオンライン診療をおこない、波が落ち着いたら対面診療とする方。採血のためだけに来院し、オンラインで検査結果の説明を受けるといった方もおられます。患者さんとの話し合いの中で、対面診療とオンライン診療をうまく組み合わせながら実施するスタイルに少しずつ変わっていっています。

睡眠時無呼吸症候群は、物理的に気道が狭くなる閉塞型と、脳血管障害や心不全などによる中枢型の2つに分類されます。

以前、CPAPを使用して安定していた患者さんの無呼吸指数が突然高くなり、中枢型無呼吸が増えたということがありました。患者さんに事情を伺うと、「もともと心疾患があり、無呼吸指数が高くなった時は夜中に息苦しかった。」という事がわかりました。これらの情報から、もしかすると潜在的に心機能が低下したため、CPAP治療中であっても中枢型無呼吸が出現したのではないかと推測しました。寝る前のアルコールを控えてもらったり、圧や圧補助機能を調整したりすることで、中枢型無呼吸が少なくなりました。これを、対面ではなくメールのやり取りとオンライン診療で実施しました。もちろんCPAP遠隔モニタンリングデータも確認をしながらです。

リスクをどこまで回避するかという問題もありますが、患者さんがすぐには病院に来られない時に、代替的にコミュニケーションを取るツールとしてオンライン診療を活用しています。オンライン診療であれば、患者さんは病院へ行かなくても主治医の顔を見ながら受診することができ、いつもの薬がもらえるので、安心感や満足度の向上につながります。患者さんが満足してくれることも、当院にとってのメリットだと感じています。

モニタリングルールでタスクをシェアし、チーム医療を強化

モニタリングで診療の質をあげていくためには、患者さんにしっかり入力してもらう必要がありますので、どうやって入力してもらうかが鍵となってきます。

当院では、「この疾患の患者さんは週一で確認して問題があればメッセージを送る。」といったモニタリングルールを決め、看護師へこの内容を指示し、家にいる患者さんをサポートする仕組みができないかと考え、モニタリングとケアを行う看護師中心の部署を立ち上げました。看護師に分からないことがあった時は必要に応じて医師が入るというように、タスクをシェアしチーム医療の体制で運営をしています。

モニタリングがきちんとできると、症状を把握しやすくなります。例えば、気管支喘息の発作の頻度が多い場合は、発作止めを沢山吸入している状態が見える=「コントロールが悪い状況」などを、患者さんと医療者側が共有できるので、患者さんへの指導もしやすくなります。

※1:睡眠時無呼吸症候群の治療に用いる機器
※2:弊社 代表取締役会長

役割分担して介入することが結果に繋がる

オンラインでのモニタリングや指導は、栄養指導でも役に立つのではないかと思っています。

CPAPを利用している患者さんは肥満の方が多いですし、高血圧・糖尿病を合併していることもしばしばあるため、このような場合は減量のために栄養指導を入れています。具体的には、YaDocの写真記録機能を用いて食事の写真を記録してもらい、その内容をもとに栄養指導を実施しています。このような方法をとってみると、劇的に減量ができる方とそうでない方に分かれる印象がありました。

そこで、食事の写真をきちんと記録している人のグループと、あまり記録がなされていない人のグループに分けて結果を解析してみたところ、きちんと食事の写真を記録している人は、体重が3ヶ月間で5キロぐらい減っている傾向がありました。逆にあまり記録していない人はそれほど体重が減らない傾向であったため、きちんと記録している人たちに対して栄養指導で介入していくと、それなりの効果が出て、あまりしていない人はそれほど上手くいかないのではという仮説を立てています。きちんと記録している方は食事療法に対する関心が高く、食事の変化を管理栄養士から褒められることでやる気がでるため、減量効果が出ているのではないかと考えています。

具体的な介入方法について少し説明しますと、定期的な対面やオンラインの指導に加えて、YaDocのお知らせ機能を使って、患者さんにポジティブなメッセージやちょっとしたアドバイスを頻回に伝えるようにしています。「ちゃんと入力していて素晴らしいですね」とか、「この時間に食べるとちょっと太りやすいかもしれません、比重は朝方に置き換えていきましょうね」とか。通常の指導以上に管理栄養士が介入していきます。

これからはこれまで以上に、病院の多くの職種やメディカルスタッフをうまく活用する事、すなわち「チーム医療」がキーワードとなります。職種によるオンライン診療システムの利用にはルールが必要ですが、使ってはいけないという法律もありません。管理栄養士が、患者さんの記憶に基づいた食事内容や紙媒体の記録に基づいた対面指導のみならず、写真でアップされた日頃の食事記録を元に栄養指導を行うと、すごく良いアウトカムがでるのではないかと考えています。この研究については、データをまとめて学術的な発表を行いたいと考えています。

YaDocが生み出す新しい病診連携

栄養指導を行っていて気づいたのですが、YaDocを活用すると実に面白い医療機関連携ができます。

YaDocの写真記録は、一回入力すると患者さんが望む医療機関にこの写真を見せることが可能です。なぜなら食事写真はPHR(※1)の一つと考えられますので、PHRの情報をどの医療機関に見せるかは患者さんが同意していれば可能だからです。例えば患者Aさんが、B診療所の医師の指示でYaDocをインストールし、体重、血圧、食事の写真などの項目を記録していたとします。AさんがYaDocを導入しているC病院で栄養指導を受けたいと思った場合、C病院がYaDocのこれらの項目にチェックを入れると、それまで記録していた全ての項目を閲覧が可能です。

ふと思いついたアイデアでしたが、日頃から病診連携を行っており最近YaDocを導入された診療所の先生につぶやいた所、「それは良いね。やってみましょう。」ということになりました。ほどなくして紹介されてきた最初の患者さんには、診察室でYaDocの医療機関連携を行っていただきました。私が写真記録にチェックを入れた時、驚きました。数ヶ月に渡って記録された100kgを超える体重の推移、かなりの量の惣菜の写真で、栄養指導のやり甲斐がある症例でした。

管理栄養士がいる診療所は少ないので、生活習慣病の患者さんに対して栄養指導をしたいと思っても、出来ずに困っている先生方がいるのではないかと思っています。

必要な治療を届ける仕組みを作っていきたい

病診連携の流れですが、まずかかりつけの医師のもとで、体重や血圧、食事記録等をYaDocに数か月入力しておいてもらいます。そして、栄養指導を目的として患者さんを紹介してもらっています。

病院には栄養指導のプロである管理栄養士がいますので、その方がこれまでどんな食事をしているかが分かると、すごく指導がしやすいということになります。このように初診の段階で、かかりつけの医師が実施していたモニタリング項目がYaDocに記録されていれば、スムーズな栄養指導ができるのではないかと考えています。

なお、事前にかかりつけの医師とどのような項目を入れていただくか打ち合わせをし、身長体重等の検査所見も全部送ってもらいます。患者さんへYaDocの医療機関連携で井上病院を選んでくださいと伝えてもらい、保険証の写真をアップロードしていただければ、患者さんが来院する前にカルテが出来上がります。当院では、かかりつけの医師から送ってもらった診療情報提供書等をもとに、最初に医師が診察して、管理栄養士への処方箋(指示書)を出し、管理栄養士が対面やオンラインでYaDoc食事記録を参考にしながらアドバイスを実施するスタイルで始めています。最終的には、4ヶ月程度経過したら管理栄養士のコメントを加えて、かかりつけの医師に逆紹介するという流れです。

病院と連携することで、診療所では提供できなかった部分を補完できるので、診療所の医師にとってデメリットはなく、上手くいくと信頼関係も強くなるwin-winのモデルだと思っています。必要な治療を届ける仕組みとして、臨床的に意味のある業務連携だと考えています。まだ実施数が少なく治療効果を言及できる段階ではありませんが、今のところ上手くいっています。

この方法は、診療所でモニタリングしていた患者さんの情報を、YaDocを通してそのまま病院側が利用でき、その治療効果のアウトカムもかかりつけの医師の所に戻せるという、PHR機能を複数の医療機関で活用するというモデルになります。得られた体重の変化などを、診療所側も病院側も見られる状況を継続していけば、ワンクールが終わって1年後に再度診るとなった時も、過去のデータをきちんと確認できます。

栄養指導だけではなく、慢性疾患は数か月単位で治療が終わるものではなく、むしろ3年5年10年と継続していくので、連続したデータが見られることが重要です。ぜひ、長期間連続かつ俯瞰的にデータを見られるような仕組みを、インテグリティ・ヘルスケア社には作っていただきたいと思っています。

オンラインが個別化医療の提供を広げてくれる

自分が食べている食事が何kcalなのか、正確に答えられる人はあまりいないと思います。知らずに食べていると、あっという間に必要なカロリーをオーバーしてしまいます。

知らないことをアドバイスすることによって、その人の食習慣が大きく変わります。正しい知識を学びこれを活用していけば、この知識は一生ものになりますから、高齢者にはもちろん、Y世代やZ世代にもうまく拡げていくことができれば、かなり有用な医療戦略になるのではないかと思っています。まさにこれは個別化医療です。その人の食事を見てアドバイスをしていくわけですから。

令和4年の診療報酬改定で、情報通信機器を用いた場合でも初回から外来栄養食事指導料が算定できるようになりました。病院で自院の患者さんだけを見ていた管理栄養士さんが、外からの依頼を受けた場合にも点数を算定できることが明示されています。

バーチャルの威力はすごくて、理論的には日本各地の診療所と井上病院の管理栄養士さんを繋ぎ、スペシャリストがオンラインで指導することが可能になるのです。まだまだ実験的な段階ですが、僕らの中でも経験値を上げていき、その効果を検証したいと考えています。

今後は、近くのかかりつけの医師より遠くの専門医にかかりたいと考える、専門家志向の患者さんが増えてくるでしょう。患者さんが自分自身で情報を集めるようになっていますので、患者さんからオンラインを求めてくることもでてくるはずです。また、かかりつけの医師から専門医に紹介する際に、データがあればそこから判断することができます。そういう意味で、情報連携やオンラインの重要さはますます増えるのではないでしょうか。

※1:「Personal Health Record」の略で、患者さん自身が収集・管理した医療・健康に関するデータを保存する仕組み

ICTの活用に早くから着目し、多様な取り組みをされている吉嶺先生からお話しを伺いました。 今後も、吉嶺先生のご活動を発信できればと思います。
※YaDocの導入、および臨床における利用は、各医療機関の医師の判断によるものです。

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